リウマチ・膠原病の血液検査について
関節リウマチや膠原病の適切な診断・治療には血液検査が欠かせません。病状から関節リウマチや膠原病の可能性がある場合、超音波検査と血液検査を組み合わせて検査を行います。関節リウマチは全身疾患のため、肝臓・腎臓機能、貧血などの一般的な血液検査項目のほか、炎症の程度、特定の自己抗体の有無などリウマチ科特有の検査項目もあります。
以下では、リウマチ科で調べる検査項目について説明します。
検査項目
- リウマチ因子RFと抗CCP抗体(ACPA)
- 抗核抗体
- 抗DNA抗体
- 抗SS-A抗体、抗SS-B抗体
- 抗リン脂質抗体
- CRP、赤沈、MMP-3
- クレアチンキナーゼ(CK)
- KL-6
- T-spot検査
- HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体・HCV抗体
- β-D-グルカン
リウマチ因子RFと抗CCP抗体(ACPA)
関節リウマチを発症している場合、リウマチ因子と抗CCP抗体は陽性となることが多いため、検査項目として一般的に利用されています。関節リウマチを分類する基準としても用いられます。
リウマチ因子RF
リウマチ因子は健康診断の項目の1つに入っていますが、健康な方でも陽性となることが多く、陽性=関節リウマチと断定することはできません。医療業界では「検査前確率」というものがあり、これは対象となる疾患の検査前に、どのくらい対象疾患の可能性があるかという確率で、検査前に疾患症状が起きていない場合は検査前確率が低くなります。
健康診断で関節炎を認められることはほとんどなく、実際に関節リウマチを発症している方を見つけるのは容易ではありません。
日本では、総人口の0.5~1%に関節リウマチが起きていると考えられています。この検査で陽性と出るのは5%以上と言われていますが、当院では、関節痛や関節炎が起きている方に、リウマチ因子を調べる検査を行うのは意味があると考えています。
近年は、リウマチ因子が陰性と出る関節リウマチも多くなってきています。この原因は分かっていませんが、陽性・陰性だけに注目せず、症状や画像検査も踏まえた総合的な診断が大切になってきます。
抗CCP抗体
抗CCP抗体とは、「シトルリン化たんぱく」というたんぱく質に対する抗体です。関節リウマチの診断において重要な項目の1つです。なお、昨今はシトルリン化以外の修飾も注目されるようになっており、名称が将来的に変更される可能性もあります。
抗CCP抗体はリウマチ因子に比べて診断精度が高く、高値を示す場合、関節破壊が急速に進むことが多いため、検査結果で高値を示した場合は早めに治療を行いましょう。なお、陰性でも関節リウマチの可能性があり、実際関節リウマチ患者の10~20%は陰性と出ます。しかし、リウマチ因子よりも精度は高いので、診断には欠かせない項目の1つであると言えるでしょう。関節症状が出ており、抗CCP抗体が陰性となった場合、別の疾患の可能性も視野にいれながら関節超音波検査なども行い、総合的に判断します。
健康診断では抗CCP抗体を測ることは少ないですが、関節症状が無くとも抗CCP抗体が陽性と出た場合は、将来的に関節リウマチが起こる可能性もあります。陽性でも関節リウマチを発症しないこともありますが、多少気にかけておくのが無難です。
抗核抗体
関節症状が若い女性に起きている場合、関節リウマチとは別の疾患の可能性もあります。なかでも、全身性エリテマトーデス(SLE)には気を付ける必要があります。抗核抗体は、SLEなどの膠原病の診断に重要な項目で、多くの膠原病患者は抗核抗体に陽性反応が出ます。抗核抗体は希釈倍率で表示されるため、40倍、80倍、160倍などと数値で出ます。40倍以上は陽性となりますが、健常者でも40倍と出ることがあります。また、加齢に伴って陽性率は上がります。このため、陽性だからといって必ず膠原病とはなりません。
健康診断や人間ドックの検査項目に含まれることがあり、高齢者の場合は特に疾患を発症しなくとも陽性反応が出やすいため、関節症状が無ければ心配しなくても大丈夫です。
抗核抗体が陽性を示す疾患はSELに加え、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群などが挙げられます。抗核抗体が陽性を示し、加えて関節症状または皮膚症状などが起きている場合、膠原病の可能性があります。
抗核抗体は複数のタイプに分けられ、このタイプを確認することでどのような自己抗体があるのか推定することが可能となります。抗核抗体陽性と出た場合は、再度血液検査を行い、特異的抗体が検出されないか調べることが必要です。例えば、抗Sm抗体、抗RNP抗体、抗DNA抗体などが挙げられます。
抗DNA抗体
抗DNA抗体はDNAに対する自己抗体で、全身性エリテマトーデス(SLE)ではこの抗体が過剰に産生されます。抗DNA抗体は2種類に分けられ、1本鎖DNAに反応するものと2本鎖DNAに反応するものがあり、SLEに特異性が高いのは抗2本鎖DNA抗体です。一般的にELISA検査でこれら抗体を測定しますが、稀に非特異的反応が確認され、疾患が起きていなくとも陽性と出ることがあります。
検査結果が非特異的反応によるものではないかチェックするため、さらに放射性免疫検出法(RIA法)を実施することがあります。SLEは抗DNA抗体のほか、別の検査も行った上で、総合的な判断が必要です。
抗SS-A抗体、抗SS-B抗体
抗SS-A抗体と抗SS-B抗体はシェーグレン症候群の診断に重要な項目で、関節リウマチやSLEでも陽性と出ることがあります。シェーグレン症候群は膠原病の一種で、ドライマウスやドライアイの症状が現れます。抗SS-A抗体と抗SS-B抗体は自己抗体ではありますが、抗核抗体が陽性と出た場合も陰性と出ることがあります。ドライマウスやドライアイの症状が出ている場合、抗SS-A抗体と抗SS-B抗体を調べることがあります。抗SS-A抗体と抗SS-B抗体が陽性で、さらにドライマウスやドライアイの症状を示す場合、シェーグレン症候群の可能性が高まります。確定診断には、歯科や耳鼻科、眼科など別の診療科と連携する必要があります。妊婦に陽性反応が出た場合、胎児に不整脈などの悪影響が及ぶ恐れがあり、かかりつけの産婦人科医師に陽性反応が出たことを共有することが必要です。
抗リン脂質抗体(抗CL抗体、抗β2GP1抗体、ループスアンチコアグラントなど)
抗リン脂質抗体は抗リン脂質抗体症候群(APS)の診断に重要な項目です。APSは、血液が固まる血栓症、習慣性流産などの原因となる疾患です。APS患者様の約半数はSLEなど膠原病の併発が認められます。この疾患の診断には、サッポロクライテリアと呼ばれる分類基準が活用されます。産婦人科の不妊外来にて、習慣性流産がある女性に行われます。
また、APSによる血栓症から、脳梗塞や深部静脈血栓症が起こる可能性があります。比較的若い方でこれら疾患を発症した場合、APSの可能性があるため、抗リン脂質抗体を調べることがあります。抗リン皮質抗体が陽性と出た場合、血栓症予防のために抗凝固薬や抗血小板薬を使用します。
CRP、赤沈、MMP-3
CRP
関節リウマチや膠原病の診断で重要な検査項目の1つです。関節リウマチの治療を受けている患者様では、治療効果の測定及び感染の確認などに役立ちます。関節リウマチの患者様は、状態などに応じて変わりますが、定期的にCRPを測定することがお勧めです。CRPは炎症の程度を表しますが、変形性関節症では高値を示すことはありません。また、若年層では炎症が起きていてもCRPが高値を示さないこともあるため、気を付ける必要があります。なお、高齢者では値が上昇することが多いです。肥満症の方も少し高値を示すことがあります。
CRPは、関節炎だけでなく、肺炎や腸炎、膵炎など炎症に対してはすべて高値を示すため、関節炎が起きていないのに高値を示す場合は感染症にも留意することが必要です。
赤沈
赤沈は昔から使用されてきた炎症マーカーで、貧血やアルブミンが多いと数値が正しく出ないことがあるため、結果の判断には気を付ける必要があります。昨今は、CRPを容易に測ることが可能となったため、あまり使われなくなりました。
MMP-3
MMP-3(マトリックスメタロプロテアーゼ3)は、関節炎のマーカーとして利用されています。関節組織から産生され、炎症の程度を表すと言われています。なお、ステロイド薬の服用や変形性関節症でも高値を示すことがあるので、炎症の程度を正しく示さないこともあることに注意が必要です。
保険の算定回数に制限があるため頻回には測定できず、必要と判断した場合のみ測ります。また、炎症の程度を確認することだけが目的の場合、CRPでも確認できます。さらに、上述したようにステロイドを服用中の患者様は高値を示すため、服用中の方には推奨されません。
クレアチンキナーゼ(CK)
筋肉が収縮する際に必要な酵素です。心臓にも心筋と呼ばれる筋肉があるため、心筋梗塞や狭心症を発症している場合も高値を示します。胸痛が起こり、かつCKが高値を示している場合は速やかに救急医療機関で検査・治療を受ける必要があります。胸痛を伴わない場合、全身の筋肉に関係することがほとんどです。
CKが高値を示す膠原病には、皮膚筋炎や多発性筋炎が挙げられます。いずれも筋肉に炎症が発生する自己免疫疾患で、発症の可能性がある場合は高度医療機関で精密検査を受ける必要があります。また、CKは筋肉細胞が壊れた際に血中に漏れ出て高値を示すため、要因は疾患以外にも考えられます。具体的には、激しい運動や筋トレ後、筋肉注射後、繰り返し足をつる、こむら返り、長期間ベッドで過ごすことなどで高値を示します。お薬も影響することがあり、特にスタチン系のコレステロール治療薬が多いです。このように上昇要因は多岐にわたるため、CKのみでは疾患を特定することは難しく、他の項目なども考慮して総合的に判断します。
KL-6
KL-6は、間質性肺炎のマーカーとして利用されます。間質性肺炎は、関節リウマチや強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎の合併症としてよく起こります。間質性肺炎は慢性と急性に分けられ、治療は呼吸器専門医と連携して取り組みます。筋炎に合併する急速進行性間質性肺炎は、高度な治療が求められるため、連携している高度医療機関をご案内します。
間質性肺炎の診断では、血液検査によるKL-6の値の確認のほか、呼吸器機能検査や画像検査なども行い、総合的に判断します。滅多にないですが、リウマチの治療薬が影響して間質性肺炎を発症することがあります。このケースでもKL-6の測定は役立ちます。薬剤性の間質性肺炎では、お薬を休薬することで解消することもありますが、進行が止まらない場合は入院によるステロイド治療を行います。入院は連携先の医療機関をご紹介します。
T-spot検査
T-spot検査は、生物学的製剤を使った治療前に行う血液検査の1つです。結核菌の感染有無、過去に結核にかかっていたことを調べられます。
以前は、「ツベルクリン反応」と呼ばれる検査が主流でしたが、BCG検査の影響を受けて偽陽性が出ることもありました。一方、T-Spot検査はBCG検査に左右されず、陽性と出た場合は結核菌に感染している、あるいは以前かかったことがあると診断されます。今は症状が出ていなかったとしても、幼少期に感染した菌が肺の一部で生き残っている場合もあります(保菌状態)。
陽性となった状態で生物学的製剤を含む免疫抑制剤を投与すると、結核が活発に動き出し、肺結核などの発症を招くことがあります。結核予防として、抗結核薬(イソニアジド)の内服治療を6~9ヶ月行います。生物学的製剤の投与は、イソニアジドの内服治療開始から3週間後に実施します。結核は他人への感染リスクがあるため、隔離病棟で長期間入院治療が必要となります。入院の場合は連携先の医療機関をご紹介します。
関節リウマチの治療を安全に実施するためには、T-Spot検査とイソニアジドの内服治療が大切です。
HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体・HCV抗体
B型・C型肝炎ウイルスのマーカーとして利用されます。B型肝炎ウイルスは感染しても肝炎を発症しないこともあり、これを「無症候キャリア」と言います。通常、抗体などが機能することで、肝炎が発生することはありません。
しかし、関節リウマチの治療薬として生物学的製剤を投与した場合、肝炎ウイルスへの免疫が弱り、B型肝炎ウイルスが活性化して肝炎が起こることがあります。劇症肝炎という重症例では、命を落とす可能性もあります。そのため、関節リウマチの治療前にはB型・C型肝炎ウイルスの感染有無を確認することが不可欠です。感染が認められた場合、ウイルスが再活性しないか、ウイルスDNA検査などで確認することがお勧めです。ウイルスが検出され、活性化の可能性がある場合、肝臓の専門医と相談のうえで抗ウイルス薬を使用することがあります。このように、関節リウマチの治療を安全に実施するためには、これらの抗原・抗体を確認することが大切です。
β-D-グルカン
β-D-グルカンは、真菌感染症のマーカーとして利用されます。β-D-グルカンは真菌を構成する成分の一種で、真菌感染症にかかった場合に血中で検出されます。
関節リウマチの治療で免疫抑制剤を使用している際、ニューモシスチスイロベッチ肺炎(PCP)という肺炎が発生することがあります。PCPは、HIV感染者など免疫力が弱った方に発生する日和見感染症の一種です。
PCPの発生によりβ-D-グルカンは高値を示すとされており、肺炎の可能性がある場合に調べられます。PCPを発症した場合は速やかに入院治療を行う必要があり、早期発見・早期治療が欠かせません。その場合は連携先の医療機関をご紹介します。
肺疾患の既往歴がある方、ステロイド薬を服用中の方、高齢者などPCPのリスクが高い方には、予防として抗生剤(ST合剤)が使用されることがあります。免疫抑制治療を安全に実施するためには不可欠な検査です。